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【書評】ジャーナリストによるヘイトへの戦闘宣言 角南圭祐『ヘイトスピーチと対抗報道』を読んで 

著者の角南圭祐さんは、在日コリアンに対するヘイトスピーチデモの現場で取材を重ねてきた共同通信記者だ。ヘイトスピーチ(差別扇動表現)は「表現」ではなく「暴力」であり、暴力に対しては中立はありえないと主張する角南さんは、一緒に闘おうと読者をいざなう。

 本書は、客観報道を乗り越え、旗幟鮮明なジャーナリズムを選び取った著者による、刺激的なヘイトスピーチ入門書であり、ヘイトとの戦闘宣言である。元徴用工をめぐる裁判の影響もあって、急速に日韓関係が悪化するなか、時宜にかなった本であり、とくに人権や朝鮮半島と日本の関係に関心のある方には一読をお勧めしたい。

 

 本書の魅力の一つは、精力的な現場取材から、ヘイトの実態がリアルに伝わってくることだ。ある在日コリアンの女性は、ヘイトデモに抗議したことからネットで顔写真や名前をさらされ、職場に脅迫や嫌がらせの電話が相次いだ。ゴキブリの死骸が送りつけられ、未成年の子どもまでネットにさらされた。なかには「すぐそばに住んでいる」と近所に住んでいることをにおわし、「チョーセンはしね」「ナタを買ってくる予定」などと危害をほのめかすツイートをするものもいた。女性はストレスで体調を崩し、片方の耳の聴力を失ったという。

 

 これはもう魂への暴力そのものだ。「目の前で人が殴られていても客観報道に徹するのか」という角南さんの主張に素直に共感できる。この理不尽が許せず、少ない時でも週に一回は女性に会いに通ったという角南さんは、心優しい熱血記者なのだろう。

 

差別、偏見をなくしていく上で、報道の役割は非常に大きいが、日本メディアの王道は「公正中立」。両論併記のお行儀のよい記事を書く記者が多いなか、彼のような闘うジャーナリストの存在は貴重だ。応援したい。

 

 角南さんはこれまで、在日コリアンを取り巻く社会状況や、強制連行や従軍慰安婦などの日韓・日朝の歴史問題をライフワークに記者活動を続けてきた。本書には、その取材の蓄積をもとに、差別、ヘイトの歴史的文脈や社会的な構造がしっかり書き込まれている。

 

 差別の背景には歴史があり、コリアン蔑視の根っこは、日本による朝鮮半島の植民地化だ。日本の負の歴史をないものとする歴史改竄主義の跋扈が、近年のヘイトスピーチの拡大を後押ししている。

 

 それは2012年の第二次安倍政権発足以降、顕著に見られる。小池百合子東京都知事が、関東大震災時の朝鮮人虐殺の追悼式への追悼文送付を2017年から取りやめたことはその一例だ。政府や地方行政のトップの言動は、マイノリティへの差別、偏見をめぐる状況にすぐに影響を与える。

 

 「嫌韓」を売りにした多くの書籍や雑誌が書店に並び、テレビのワイドショーが毎日のように韓国の「反日」ネタを流すいまの風潮には、不気味なものを感じる。

 

 そこで、私たちはどうすればいいのか。

 

 偏見の目を日常的に摘んでいかないと、差別はエスカレートし、大震災のような特定の状況のもとでは取り返しのつかない悲劇をもたらす。それは歴史が証明している。

 

 「『私は差別をしない』では差別はなくならない。『私は差別に反対する。闘う』でなければならない」(261頁)と角南さんは、読者にも「反差別の戦線」に立つよう訴える。信念をもつジャーナリストからの熱い連帯の誘いに、私も闘いの輪に加わりたいと思った。

 

 多くの箇所で「そのとおり!」と肯きながら本書を読み通した私だが、一つ異論がある。本書が多くの頁を割いている朝鮮学校の問題だ。角南さんは、朝鮮学校に対する高校教育無償化からの排除や補助金の打ち切りに反対し、朝鮮学校を「元気」にしたいという。

 

 ここで、朝鮮学校を別の視点から見てみよう。

 

 拉致問題や「朝銀」(朝鮮信用組合)破綻の取材から、私は、朝鮮総連は北朝鮮体制の出先機関であり、傘下の朝鮮学校もその一部とみなしている。脱北者などの証言によると、北朝鮮の体制の本質は、ナチズムと同じ「全体主義」であり、その人権抑圧の酷さはナチスに勝るとも劣らない。この瞬間も、政治犯収容所では多くの無辜の民衆が虐待に苦しんでいるはずだ。

 

 金正恩を賛美する歌や踊りを、朝鮮学校は生徒たちに練習させ、はるか平壌まで連れて行って披露させている。これは、子どもにヒトラーを称えさせる行為とどう異なるのか。朝鮮学校に対して公費を投入すべきかどうかは、ヘイトの問題とは分けて議論すべきではないか。

 

 角南さんは、公正中立を標榜するメディアに対して、「あなたはナチスが政権を取っても、中立でいるのか」(本書21頁)と迫る。また、「人権にダブルスタンダードはない。それが私のスタンスだ」(128頁)とも宣言している。その言やよし!

 

 では、人権の観点から、北朝鮮のあの体制をどう見るのか。機会があれば、角南さんに聞いてみたいと思う。

 

高世 仁(ジャーナリスト)

 

 

一読者の声

「朝鮮学校に対する高校教育無償化からの排除や補助金の打ち切り」に関してはいろんな見解があるでしょう。

 私は現在の朝鮮学校の教育内容には反対です。しかし、日本の納税義務をはたしている定住外国人も、日本国民と同じく教育支援を受ける権利があります。

 問題は一条校※1でないインターナショナル校には支援をするのに、朝鮮学校だけ排除する事です。それは差別と言われても仕方がないと思います。

 この支援給付は学校の運営を支援するためではなく、子供が希望する教育を受けられるように支援するための給付です。

 したがって、1条校以外の学校には一律に学校組織への直接給付をせず、一条校以外の学校を希望する子供または扶養者からの個人申請による個別給付にすべきだと思います。

 朝鮮学校に行くことを選択する場合は、民主主義国家ではそれを禁止することはできないでしょう。仕方がないことだと思います。(大阪Y)

 

編集部注:「一条校」とは

 学校教育法(昭和22年法律第26号)の第1条に掲げられている教育施設の種類およびその教育施設の通称。一条校の場合、カリキュラムは、日本の文部科学省が「教育課程の基準」として公示する教育要領・学習指導要領に基づいて定められ、日本国からの資金援助や税制上の優遇措置がある。しかし、日本の教育課程に準拠しているため、「国語」は「日本語」を指し、文部科学省検定教科書を使用し、日本の教員免許所持者が授業を行う。

 

 一般にインターナショナルスクールのカリキュラムは、創立理念や母体によって独自に開発していくので、一条校になると民族教育は困難となっている。そのため、インターナショナルスクールは各種学校として認可され、一条校となっているスクールは数校である。

 

 韓国系のインターナショナルスクールで一条校として認可されているのは、大阪にある白頭学院建国学校と金剛学園、京都国際学校、コリア国際中高校(KIS)の4校である。

 

 一方、韓国の公務員や本国駐在商社員の子弟の就学数が在日学生数を上回り、全体の学生数の9割を占めるに至る東京韓国学校は、日本政府から一般インターナショナルスクールとして認可を受けた各種学校であり、独自のカリキュラムで教育できる。また、朝鮮学校も独自のカリキュラムで民族教育を行っているので、各種学校として分類されている。

 

下記サイトの「在日コリアン民族学校の研究-同化主義と国民化教育の狭間で」を参照

http://web.sfc.keio.ac.jp/~oguma/report/tech/korea.html

 

 集英社新書『ヘイトスピーチと対抗報道』に関する意見、感想がありましたらお寄せ下さい。ただし、ヘイト、悪意のあるコメントは編集部段階で没にします。

 

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