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【News116】 寄稿: 中国の全体主義と対峙する時 不妊手術を強制、母語の抹殺、香港の民主主義圧殺の所業 評論家 三浦小太郎

 中国は経済成長を梃子に「大中華民族主義」を掲げ「核心的利益」を主張し、他国の領海を侵犯し武装警備船によって漁船を衝突沈没させ、艦艇や戦闘機を動員し演習を繰り返し周辺国を脅迫する。自国の安全保障政策のために国内法を新たに作り、排除の法的根拠として喧伝する。他国の人々の基本的な生きる権利を侵害しているのに頓着しない。傍若無人は、黙視できないまでに膨張を続ける。沈黙はいまや「人道に対する罪」に暗黙の諒解を与えるに等しい。(編集部)

 

 

ウイグルジェノサイドに及び腰の日本政府 

1月19日、アメリカのポンペオ前国務長官は、退任直前に、中国政府がウイグルで行っている政策を「ジェノサイド」と認定し、その理由として、2017年3月以降、100万人を超える人々が強制的に収容されていることや、女性に対する強制的な不妊手術などが行われていると指摘し、「人道に対する罪」にあたると述べた。

拘束された再教育センターに収容されたウイグル人

バイデン政権で次期国務長官に指名されたブリンケン氏もこの見解に同意している。これに対し、1月26日に開かれた自民党外交部会で外務省担当者は「ジェノサイドとは認定していない」と述べた。この件で、外務省が人権外交を放棄した、中国に対し弱腰だという批判が、特にウイグル支援者の中であがっている。

ここで忘れてはならないのは、昨年末共同通信社が流した次のような情報である。

「日本政府が独自に入手した、中国でイスラム教徒の少数民族ウイグル族が強制収容された根拠となる情報を昨年、出所を明らかにしない条件で米英両政府に提供していたことが、28日までに分かった。

人権問題を巡っても中国政府への圧力を強めていた米国は、これらの情報を基にウイグル族を弾圧したとして中国への非難を展開していた。」(「日本、ウイグル弾圧を米英に提供」共同通信2020年12月29日記事)

 日本政府が独自にウイグル現地の情報を直接入手したとは考えにくい。おそらく日本在住のウイグル人たちが、故郷の家族に加えられている弾圧の実情を、日本当局もしくは支援団体に伝えたのだと推測される。実際、報道や漫画作品(清水ともみ・楊海英共著「命がけの証言」WAC出版)などでも明らかなように、いま日本に住むウイグル人のほとんどは故郷の家族と連絡が取れていない。また、突然家族から予告なしに連絡が入り、明らかに脅迫されている表情で、日本でウイグルの人権を訴えるなどの活動はやめるように告げてきた例もある。ボンペオ長官の発言は国際社会での収容所体験者の証言をベースにしたものだが、日本からの情報も多少は参考になったはずである。

 

 

人権外交を率先して展開する意思が必要 

日本政府がこのような事実を、自ら公開して国際社会に訴えるのではなく、欧米の力のある政治家に代弁してもらうという姿勢である。トランプ政権は確かに中国に対する強硬姿勢を打ち出したが、他国との連携には関心が薄かった。バイデン政権の外交はまだ未知数だが、少なくとも同盟国との連携をトランプ時代よりは強化することは確実であり、日本国もアジアの人権外交をむしろ率先して展開するだけの政治的意志が必要なはずだ。

 

かつて日本政府は、帰国者が北朝鮮の収容所で強制労働の末斃れていく現状を証言した帰国者家族の声を充分対北人権外交に生かしたとはとても言えない。この悪しき歴史を繰り返してはならないのだ。

 

南モンゴル(内モンゴル自治区)における母語抹殺、日本モンゴル現代史に原因 

 南モンゴル(内モンゴル自治区)が、文化大革命時代にまさにジェノサイドが行われたこと、しかもその遠因には日本とモンゴルの現代史における関係に大きな原因があったことは、国民作家と言われた司馬遼太郎の「草原の記」にその一端が知らされ、現在ではモンゴル人学者楊海英氏の著作(『墓標なき草原』『チベットに舞う日本刀』等)によってその全体像が明らかにされつつある。かつて満州国時代、日本の軍事教育を受けたモンゴル人たちは「日本刀をつるした奴ら」と呼ばれ、文革時代には多くモンゴルの分離独立を目指す「内モンゴル人民党」とみなされて大弾圧を受けたのだ。

 中国側の正式な発表でも、文化大革命時期には約3万人のモンゴル人が処刑されている。その他にも数十万人が逮捕され、獄中でひどい拷問を受け、障害者となったり、釈放されたのちも拷問の後遺症で亡くなった人も含めれば、さらに十万単位の犠牲者がいるという数字もある。これもまた、特定の民族を対象にした民族浄化政策で、中国側の資料もその残酷さを裏付けている(前記楊海英氏著作参照)モンゴル人はその伝統的な生活様式である遊牧も禁じられ、中国人の大量の流入により、既に南モンゴルの人口比率は、80%が漢民族となった。

 

環境破壊や砂漠化も進む 学校教育はモンゴル語から中国語へ 

これでは「自治区」とはなりえず、モンゴルの地下資源は中国企業により収奪され、乱暴な開拓で環境破壊や砂漠化が進んでいる。そして、現在はモンゴルにおける学校教育において、授業がモンゴル語から北京語に次々と変えられており、遂にモンゴル人はその母語をも奪われようとしているのだ。この政策は、現在の中国憲法における民族自治の原則(言語、文化の保持)にも反する行為であり、南モンゴル全土で抗議行動が起きているが、中国当局は彼らを不当に逮捕している。画期的なのは、モンゴル共和国をはじめ、海外のモンゴル人たちが、日本も含めて「母語を護れ」という一点で連帯し抗議に立ち上がっていることだ。日本でも多くのモンゴル人によるデモや抗議行動が展開されている。

 

 

上写真=モンゴル語教育廃止に、寄宿学校の前で泣きながら抗議する学生たち

 

圧殺される香港の自由、今こそ必要な海外での運動展開

昨年度の香港国家安全法施行以後、民主化運動の指導者たちは次々に逮捕され、香港の民主主義は圧殺されたかに見える。確かに現状ではこれまでのようなデモは困難だ。

しかし、海外の運動家たちは、この弾圧に屈することなくSNS等で言論戦を繰り広げており、新しい香港アイデンティティが主張されている。特に若い世代は、香港の旧民主運動家とは違い、中国大陸からの分離独立を主張するグループすら現れている。イギリス政府が香港市民の亡命を受け入れる旨宣言したことで、今度は中国側は現在多くの海外の香港人が使用しているイギリス発行パスポートの使用を禁ずることを宣言している。ある講演会で訴えた香港の活動家は、自分たちはもうこのパスポートを失えば香港に変える意志はない、中国国籍のパスポートは使いたくもないと語っていた。これは新たな「政治難民」の出現であり、逆に香港の運動が国際化し新たな可能性を見いだしていくことにもなろう。

 

写真=2020年6月9日、集会禁止の香港で民主化求めるデモを決行

忘れてはならないのは、香港の民主化運動が確実に台湾の選挙に影響を与え、祭英文氏の当選につながったことだ。香港は一時的に抑圧されたが、台湾の自由民主主義と大陸からの自立はより堅固なものとなり、バイデン大統領就任式での台湾関係者の隣席につながった。

 

 

チベット、ウイグル、南モンゴル、中国民主化運動、香港民主化運動家メンバー

北京オリンピックボイコットの声明を発表

2月4日、外国人特派員協会にて、各メンバーが集い、2022年北京オリンピックについて、中国政府が現在の人権弾圧やジェノサイド政策を改善しない場合は開催に反対し、国際社会は参加をボイコットすべきだという趣旨の声明文を発表した。

新型コロナ感染症の発生国の中国は、当初隠蔽しようとしたのは明らかであり、少数民族のジェノサイドを行っている中国が、首都北京でオリンピックを開催するなどとは正気の沙汰とは思えない。

 

オリンピック憲章の公然たる蹂躙と破壊を容認してはならない。かつてのナチスのベリルン・オリンピック同様、独裁体制の美化につながる。

 

 

アジアの自由と民主主義のために

 

本稿執筆現在、ミャンマーでは軍のクーデターに対し市民の広範囲な抵抗運動が逆に軍を追い詰め始めている。自由と民主主義は勇気ある言動に支えられる限り、必ずいつかは独裁者の暴力に打ち勝つはずだ。中国の人権問題や民族問題に取り組むことは、北朝鮮の独裁体制の解体や難民救出と本質的には同じ方向を目指している。アジアにおける自由民主主義の勝利のために、日本がなしうることがある。それを行わせることは日本国民の責務でもある。

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