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新型コロナウイルス感染症と北朝鮮

金 青空(統一医療研究専門家) 

 

はじめに

 2020年度の上半期、世界中を襲っている新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響を北朝鮮も避けられずにいる。

 北朝鮮はコロナが拡散する初期の局面で中北国境を早く封鎖した。当初、中国を含む海外からの航空便が多くなかったため、全世界におけるコロナの初期の拡散状況下では相対的に良好な条件に置かれていた。

 しかし、コロナの特性上、感染源の侵入の小さな空き間でもあれば、ウイルスが拡散する状況を考慮すると、いくらコロナの初期の状況が良好だった北朝鮮でも、その後の状況は断言できない。コロナを含む保健医療の分野だけでなく、他の分野でも北朝鮮の実際の関連現状を把握することはかなり難しいことだ。現在、北朝鮮は公式にはコロナに関する感染者数や死亡者数などの具体的な数値を発表していない。

 したがって、北朝鮮のコロナに関する状況を把握するためには、既存の北朝鮮の保健医療のシステムの現状とコロナに関する北朝鮮のメディアの内容に対する解釈などを基に、北朝鮮のコロナの現状を推定して分析する方法が有効だろう。

 

北朝鮮の保健医療体制の現状

 まず、北朝鮮の感染症関連の保健医療体制の現状について見てみる。北朝鮮の保健医療体制の中で衛生と防疫などを担当する機関は衛生防疫所である。衛生防疫所は中央衛生防疫所をはじめ、各道や市、郡などに支所が設置されている。                 

 衛生防疫所は、担当地域内の衛生防疫の状態を正常的に管理し、該当の地域の各種の機関や企業所、協同団体、住民地区、商業部門などで、衛生防疫の規範や規則をきちんと守るよう、検閲や統制活動を行う機能を果たしている。                    

 また、感染症の発生を防ぐための予防接種や消毒、殺虫などの事業を進める。そして衛生防疫所では、市場や商店で販売される食品の安全性の検査や食品を販売する人々、飲食店の従業員たちへの衛生健康診断も担当する。                       

 このほか、中朝国境の地域に位置する一部の衛生防疫所の場合には、海外(中国)を行き来する人々の性病の検査や寄生虫の検査なども担当する。                 

 このように北朝鮮の衛生防疫所は、衛生と防疫に関する様々な業務を担当する機関で、今回のコロナの局面で当局の方針を住民に執行する最前線の機関と言える。

 

保健医療のための隔離施設、第3予防院、第2予防院 

 コロナの防疫で最も重要なのが隔離施設だろう。北朝鮮の保健医療的な隔離施設は、人民病院の内部に設置された隔離治療病棟(感染病棟)と第3予防院(結核病棟)と第2予防院(肝炎病棟)などがある。                                 

 北朝鮮の道・市・郡の地域設置された人民病院の隔離治療病棟は、当該地域の衛生防疫所が管理する。しかし、人民病院の隔離治療病棟は、現代化されていないところが多く、入院できる状況が良くないところが多い。また、隔離治療病棟での患者の収容率も限界があるため、その機能を十分に果たすことが難しいと分析される。           

この他に、北朝鮮には各道・市ごとに第3予防院(結核病棟)と第2予防院(肝炎病棟)がある。これらの病棟は、市内から離れているところに位置しており、感染症に対応した隔離治療、入院には有利(有効)だ。しかし、これらの施設も隔離患者らに必要な食事や冷暖房などのインフラ環境が貧弱である。したがって、北朝鮮はコロナに対処するにあたって、各地域の衛生防疫所が中心となって防疫と隔離業務を行っていることが分かる。患者向けの隔離施設が十分でないため、多くの住民が自宅で自家隔離を行う場合が多いことが分かる。

 

北朝鮮の公式メディアの報道と各種キャンペーン

 次に、コロナに対する北朝鮮の公式メディア報道と各種キャンペーンについて見る。「労働新聞」と朝鮮中央通信をはじめとする北朝鮮の公式報道メディアでは、今年1月にコロナが世界的に流行し始めた時から今まで、毎日コロナに関する北朝鮮の内部の防疫対策や世界中の感染状況などを比較的に詳しく報じている。               

 特に、それらのメディアで報道された写真や動画に現れた住民のマスク着用の姿を注目する必要がある。北朝鮮の住民が街を歩く写真と最近行われた平壌総合病院の着工式や順川燐肥料工場の竣工式などの一号行事に動員された多くの群衆の動画を見れば、すべての住民がマスクを着用していることが分かる。もちろん、よく見るとほとんどが医療用保護マスクではなく、綿マスクを着用していることが分かる。外部活動の時にほとんどの住民がマスクを着用しているのを見れば、コロナ防疫に関する認識が北朝鮮の住民の間では比較的によく定着していることが分かる。

 

診断キットは十分でないが、ある程度供給されている                

 さらに、金正恩党委員長が登場した報道を分析してみると、現在、北朝鮮では新型コロナ診断キットは十分な数量ではないが、ある程度供給されていることが分かる。コロナの初期局面に報道された金委員長の現地指導の写真や動画を見ると、金委員長を除くすべての随行幹部がマスクを着用していた。しかし、この後、ある程度コロナが拡散してからは金委員長が参加した行事や現地指導で、金委員長だけでなく金委員長に付き添う最高指導部の幹部らもマスクを着用していない姿が現れる。                        

 特に、知られたようにコロナは、高齢者層が最も重症化しやすい。金委員長を除く最高指導部の幹部らは年齢が高い場合が多い。すなわち、金委員長の活動を取り巻く環境がコロナの感染に非常に脆弱であるにもかかわらず、金委員長に最も近接の距離で随行する幹部らがマスクを着用していない。すでに幹部たちが、陰性判定を受け、金委員長の指導に参加できていることがよく分かる。

 つまり、コロナ感染症診断キットがある程度北朝鮮に搬入されており、最高指導部と幹部層を中心に優先的にコロナを診断したと判断できる。                  

 北朝鮮の公式メディアがこのようにコロナに関する内容を集中的に送出するのは、北朝鮮の住民に対する宣伝の機能もある。実際、北朝鮮の住民は2020年度の上半期中で、日常の関心事はもっぱらコロナであるほど、非常に敏感で生活している。             

 北朝鮮住民が連日、当局のメディアで報道されるコロナ関連の防疫活動や他国のコロナの現状についてのニュースに接し、世界中のコロナ感染が深刻だと認識している。住民も自身の体に熱があるのか、風邪の症状があるのかどうかなどを随時チェックしている。

 

コロナ防疫に対する当局の宣伝と生活指針

 コロナの防疫に対する当局の宣伝とともに、当局の強い住民向けの生活指針もある程度の効果をもたらしている。実は、北朝鮮の住民の日常生活は2000年代以降、市場経済が発達し、非公式の生活環境の部分が大きくなった。それでも、国家の安保や緊急の安全を要する状況が発生して当局の方針が下されれば、北朝鮮の住民は徹底的に従う側面がある。特に、今度のコロナのようにまだ治療薬やワクチンが開発されていない新型感染症の場合には、非常に緊急かつ深刻な事態であるので、北朝鮮の住民たちは当局の方針を比較的に一糸乱れず従っている。これにより、北朝鮮の住民はできるだけ日常生活で移動自粛をしながら集団活動も自制していてコロナの拡散をある程度防ぐ効果もある。

 

保健医療体制が大幅に変化、大型専門病院の建設 

 この他にも、コロナと北朝鮮の現状を判断する上で考慮すべき重要な点は、金正恩政権になって北朝鮮の保健医療体制が大幅に変化している。ことである。金正日政権の時期に比べて相対的に大幅に改善、現代化している。金正恩政権では、人民生活を改善するという、いわゆる民生中心の政策を展開している。そのような政策の流れの一環として一般住民はもちろん、児童や高齢者、障害者向け医療、介護医療インフラを首都の平壌を中心に建設し、既存の施設を現代化している。                       

 最近、平壌の中心部に平壌総合病院が着工され、今年10月まで完工を目標に建設が進行している。

 金正恩時代に建設された大型病院を見ると、柳京眼科総合病院、玉流児童病院、歯科総合病院などがあげられる。

 北朝鮮の病院の体制は専門病院と総合病院に分類される。金正恩時代に平壌に建設された病院の種類が眼科、歯科、小児科、産婦人科などの専門病院が中心だったため、だからこそ今では平壌総合病院のような総合病院を建設したことで、総合病院も大型化、現代化し始めたと分析される。もちろん、コロナのような予期せぬ保健医療的な事態により大型の総合病院の建設をより迅速に推進する点も想定されている。

 

各種の感染症、疾病の拡散状況に対処できる力量の強化へ

 ここで重要なのは、今後首都の平壌に集中する保健医療インフラの新設、現代化の流れが地方の拠点都市に広がり、地方の住民の保健医療へのアクセス権が向上していかなければならない点である。幸いなことに、ここ数年、北朝鮮の地方の拠点都市に診療所や人民病院、療養所などの保健医療インフラが過去より比較的活発に新設され、現代化傾向を示している

。保健医療インフラが持続的に質的・量的に改善、現代化すれば、それだけ今回のコロナのように、今後予想できない各種の感染症と疾病の拡散状況に対処できる力量が強化されるという意味がある。                                   

 またコロナは、経済状況にも大きな影響を及ぼしている。コロナの感染状況が予想よりはるかに長く続いているため、北朝鮮の内部の市場物価の状況が良くない。例えば、北朝鮮の住民たちが消費する生活必需品の中で、食用油の場合も2020年の初めに比べて最近は約6倍ほど価格が高くなるなど、生活必需品の物価が大幅に上がっているという。       

 6月に入り、世界中に再びコロナが拡散する兆しが見えている。特に、中国の北京をはじめ北朝鮮と国境を接する遼寧省にも感染が再拡散している。中朝国境の封鎖措置はしばらくは続くだろうし、これにより北朝鮮の内部の経済事情もさらに落ち込む可能性が高まるものと予想され、コロナの感染状況は予断を許さない。

 

<編集部註>この論考の原文は、日本語で寄稿された。日本語としての文書が長い場合は2つの文章に分割し読みやすく改めた。また文中の中見出しは編集部がつけた。

 

<著者紹介> 西江大学現代政治研究所研究員、ソウル大学医科大学統一医学センター 研究員を歴任。論文、報告書、著書多数。

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