【News114】2020年NPT再検討会議(延期)への期待  ―北朝鮮の「非核化」を国際的に約束させる絶好の機会―

田平啓剛

 

1.米朝首脳非核化協議の頓挫

 米朝首脳は過去3回(2018年6月シンガポール、2019年2月ハノイ、同年6月板門店)、北朝鮮の非核化を巡り会談を行った。2017年中に高まった米朝軍事衝突、第二次朝鮮戦争の危機を回避できたという意味では成果はあったが、それ以上の具体的果実はなく、全ての希望は近い将来の実務者協議の再開に委ねられた。

 これを受け、2019年10月、北朝鮮の非核化に向けた米朝実務者協議が、スウェーデン・ストックホルムで再開された。ハノイでの交渉決裂以来の実質的協議再開であったが、この評価を巡っては、北朝鮮側は「交渉は我々の期待に添わず、決裂した」と述べ、米側は「創造的なアイデアを提示し、北朝鮮側と良い話し合いを行った」とし、更に、スウェーデン政府の提案を受け入れ、同国で継続協議をすることになった、と付言。評価は分かれた。

 何れとせよ、次の米朝首脳会談への布石として見られていた実務者協議再開であったが、今日に至る迄、その果実は一向に見えない。それどころか、協議再開前からも、北側は米側の交渉方針転換を呼ばない程度の「短距離弾道ミサイル」や自称「超大型ロケット砲」の発射実験乃至訓練を繰り返し、現に課されている国連の対北経済制裁解除を求め、最大限の圧力行使を試みている。

 

2.北朝鮮における信じ難く耐え難い人権蹂躙

 北朝鮮の核関連施設は豊渓里の地下核実験場が夙に有名であるが、実はその他ウラン濃縮・精製工場等は全土に及び、しかもその多くは秘匿の為、地下深くに設置されている。

米国のシンクタンク、スティムソン・センターが運営する情報分析サイト「38ノース」は、最高・最新のテクノロジーを駆使したスパイ衛星を活用し、北朝鮮の核関連施設やミサイル関連施設の画像分析を専門的に扱っている。それでも把握され得ない施設は無数にあると推定されている。米朝交渉によって、米側がその可及的正確な炙り出しをしようと努めているのは、世界周知の事実である。

 北側は、老朽化し、今後の使用に最早耐えられなくなった豊渓里の地下核実験場の閉鎖を目玉の交換条件とし、何とか経済制裁の解除、少なくとも枢要な一部解除を勝ち取ろうと躍起になっている。

 しかしながら、豊渓里における住民の放射能被害の噂は、厳しい情報統制下にあっても少なからず漏れ出て来る。“肛門のない新生児”、“原因不明の衰弱死”等、恐るべきものである。その他全土の核関連施設における人身の安全基準は、先進各国に較べ、極めて劣悪なものと強く推定されている。

抑々、北朝鮮の国家体制は、凡そ21世紀の現代においては、その存立自体が謎である金一族による専制独裁国家である。反体制的な行動に訴えようとする者は勿論、その言辞を弄しただけの者、体制への不満や批判を仄めかしたに過ぎない者も、連座制という悪魔の掟によって、一族郎党「管理所」という名の政治犯収容所等々へ放り込まれる。飢餓と暴力によって支配される其処では、ありとあらゆる人権侵害が日常的に繰り返され、被収容者は家族共々、家畜以下の扱いに晒される。“この世の地獄”と呼ばれる「管理所」。“生きて出ることのない”とされる、その中の更に「完全統制区域」。「死刑よりも重い刑」と怖れられ、此処に送致されることになった時、一思いに殺されるよりも辛い、その余りにもの苛酷さ・悲惨さを怖れ、自死を選ぶ人も出て来るのだという。

 

3.待ったなしの2020NPT再検討会議

 1970年、世界の核兵器国を米国、ロシア、英国、フランス、中国の5ヶ国に厳しく限定し(国連安全保障理事会の5常任理事国にも該当)、これ以外の180ヶ国以上の諸国には新たな核兵器保有を禁じ、保有済みの核兵器国には誠実な核軍縮努力義務を課する核不拡散条約(NPT)が発効した。本来、二つのカテゴリーの主権国家間に根本的な不平等があり、更に南アジアにインド、パキスタン、中東にイスラエル、イラン、北東アジアに北朝鮮という条約の枠外国家乃至疑惑国家(イスラエルは1970年代からの事実上の核保有国。インドは1974年に初の核実験、1998年に水爆を含む地下核実験。パキスタンは1998年に地下核実験)の存在があり、以後も議論は紛糾した。

 が、1995年、条約は無条件・無期限延長となり、核武力の国際秩序は永く固定されることになった。同時に、5年毎にNPT体制の履行状況を点検し、運用を見直す為、NPT再検討会議の設置が国際合意され、現在に至っている。この間、2000年の同会議では、核廃絶に至る「明確な約束」等13方策の軍縮措置が、2010年会議では、その詳細に亘る64項目の行動計画が採択された。しかし、2005年及び2015年、核兵器国と非核兵器国との利害関係は錯綜し、更に日本を含む、核兵器国の「核の傘」の保護下にある諸国の複雑な立ち位置も絡み、共に合意ゼロという惨憺たる結果に終わった(1980、1990、1995年も同様)。

これを受け、又、NPT体制発効後50年という節目を迎えて、2020年、都合10回目のNPT再検討会議は、その存在意義において正に崖っぷちにあった。

 

4.核兵器禁止条約による「核廃絶」への機運醸成

 2009年国連安保理決議1887号において、「核兵器なき世界」の実現は国際社会の目標と議決され、2010年NPT再検討会議においては、核兵器の非人道性を国際人道法との関係で初めて明確に位置付け、核兵器禁止条約のような法的枠組みが必要であると明記した最終文書が採択された。更に、潘基文国連事務総長から「核兵器禁止条約の提案に留意する」云々の言及を引き出した。これらを嚆矢とし、様々な紆余曲折を経て、2017年、国連において核兵器禁止条約の交渉が行われ、7月7日、同条約は賛成多数で採択された(賛成122、反対1、棄権1)。同条約交渉には、全核保有国や米国の「核の傘」傘下のNATO諸国等は参加せず、日本も「核兵器国と非核兵器国との懸け橋になる」として実質的に不参加。今も81の同条約署名国にも入っていない。現時点で批准国・地域は36。50ヶ国の批准が必要な為、核禁条約は未だ発効には至っていない。

 北朝鮮については、2003年、NPTを脱退して以降、2006年~2017年、計6回の地下核実験を繰り返し、目下、国連の経済制裁下、国際核管理秩序の最大の波乱要因となっている。停滞する米朝間の非核化交渉、又、独裁者金正恩の消息が全世界の注目を浴びるのは、この為である。

 私は、しかし、核禁条約の批准も視界に入った今日、2020NPT再検討会議の好機を捉えて、国連が安全保障理事会と人権理事会の合同理事会を開催し、「北」の核問題と人権問題を一挙に解決する方途を探ることを提唱する。先述の通り、「北」の人権状況は21世紀に生きる人類として恥ずかしい醜悪さである。其処では3代世襲の金一族が専横の限りを尽くし、“人”としての尊厳は踏み躙られ、国家全体が強制収容所と化している。

21世紀の国際法の新しい概念として、「保護する責任」がある。「保護する責任」は、自国民の保護という国家の基本的な義務を果たす能力のない、或いは果たす意思のない国家に対し、国際社会全体が当該国家の保護を受ける筈の人々について、「保護する責任」を負う、という新しい概念である。我々は今こそ、「北」の領域において、この「保護する責任」を果たすべきである。

 「北」の後ろ盾として、伝統的に中国が控えている。アジア唯一の国連安保理常任理事国として、又、今や米国を猛追する世界第二位のGNP(GDP)大国として、世界政治と人類の幸福に大きな責任を有する中国の奮起が今、特に望まれる。人民解放軍の黎明期、中国人民に奉仕した正義と清廉の力を再度奮い起こし、世界の繁栄と人類の名誉の為に、国際政治上のひとつの大いなる癌を取り除いて欲しい。

 

5.人類への新たなる挑戦、コロナ禍

 2020年、年初から未知のウィルス、新型コロナが世界中で猖獗を極めている。その正体は未だ完全には捉えられておらず、有効な治療薬、ワクチンも開発途上である。今次コロナ禍は、2020NPT再検討会議を先に延ばしただけではなく、或いは人々の従前の生活様式や生活文化をも一変させてしまうかもしれない。

 しかしながら、我々はこれまでもそうして来たように、世界中の叡知と力を結集して、人類への新たなる挑戦を淡々と退けて行くだけである。

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