映画評 『太陽の下で-真実の北朝鮮-』を観て

李グムヒ

あの涙が意味すること 

  2016 年 11 月 16 日、NPO 北朝鮮難民救援基金か らドキュメンタリー映画「太陽の下で」の試写会 のお知らせが届いた。あいにく、仕事で試写会に 参加することができなかったが、映画の内容が気 になりインターネットで調べてみた。以下が当時、 目にした「映画.com」サイトの解説である。 

 

 「北朝鮮政府によって演出された『庶民の日常生活』 の裏側を暴き、当局によって検閲を受ける前にフィルム を外部へ持ち出すなど、さまざまな危険を冒して完成し たドキュメンタリーだ。 模範労働者の両親とともに平壌 で暮らす8才のジンミ家を通し、ロシアの撮影スタッフ が庶民の日常を切り取るドキュメンタリー撮影のはず が、北朝鮮側の監督の OK が出るまで一家は繰り返し演技を強いられた。高級な住まい、親の職業、クラスメイ トとジンミの会話、すべてが理想の家族のイメージを作 り挙げるために北朝鮮政府が仕組んだシナリオだった のだ。スタッフは、『真実を暴く』ことに撮影の目的を 切り替え、カメラの録画スイッチを入れたまま、隠し撮りを敢行する。

  北朝鮮からの要請でロシア政府はモスク ワ・ドキュメンタリー映画祭の会長を務めるビタリー・ マンスキー監督への非難声明と上映禁止を発表。しかし、 韓国、アメリカ、ドイツなど20都市以上で上映され た。」

 

  私は、新宿にある 100 人以下の小さな映画館に 足を運んだ。劇場は小規模ではあったが、ほぼ満 席で、北朝鮮の現状に対する関心の高さを感じる。

  席に座る間も無く映画は始まる。ジンミの3人 家族の平凡な暮らし、平壌の風景が淡々と流れる。 金日成広場、万景台学生少年宮殿、主体思想塔、 大同江など懐かしい平壌の場所が映し出される。

  2月 16日に朝鮮少年団に入団するジンミをみて、 私もあの日に入団したことを思い出す。

  北朝鮮では人民学校(小学校)2年生になると 朝鮮少年団に入団することが義務化されている。 入団は、北朝鮮の祝日である 2 月 16 日(金正日の 誕生日)、4 月 15 日(金日成の誕生日)、6 月 6 日(朝鮮少年団創立記念日)、9 月 9 日(共和国創 建日)、10 月 10 日(朝鮮労働党創立記念日)年間 5 回行われており、学習と組織生活を頑張る優秀で、 出身成分がいい学生を優先に、1 期から 5 期まで順 番に入団させる。1 年間で同年代の子供たちは全て 入団することとなるが、早めに入団し赤いネクタ イを着けるほど名誉があるとされている。おそら く 1 期、2 期の入団人数は決まっており、学校の先 生たちが誰を先に入団させるか真剣に検討する。

  特に優秀であった覚えはないが、なぜか私も第 1期生として 2 月 16 日に入団することができた。 私の場合、食料に困窮していた担任教員が定期的 に私の母から食料をもらっていたため、担任教員 の推薦ではなかったのかと思う。

  映画の中のジンミも 2 月 16 日、第1期生として 入団していた。しかも、北朝鮮の首都である平壌 で、ジンミは庶民の娘であったのにも拘わらず、 最前列で党の幹部にネクタイをもらっていた。北 朝鮮の生まれ育った人だとしたら誰でもこの異常 さに気づくことが出来る。このひとつの場面だけ でも、8 才の少女ジンミは平凡な子供ではなく、嘘 の役を忠実に演じている役者であることがよく分 かる。小さな 8 才の子供にどれだけの重圧がのし かかっていたのかを考えるだけでも背筋が凍る。 ジンミは自分と家族の命を守る為、政府の監督の 指示のもと、必死に台本を演じる。

  しかし、映画を撮影する間、政府の監督も描く ことのできなかった落とし穴がある。それをヴィ タリー・マンスキー監督は鋭く暴いている。北朝 鮮国民は持つことのできないもの、描くことので きないもの、それの答がこの映画では描かれてい る。その答を知る瞬間、すべてが北朝鮮政府によ って作られた嘘であること、また北朝鮮の実態を 分かることが出来る。

  一番印象に残るのは、ヴィタリー・マンスキー 監督がジンミにインタビューする場面である。監 督がジンミに「夢は何か」とありきたりの質問を する。しかし、ジンミは「分からない」と言いな がら、泣き出す。それをみた監督が慌ててジンミ を慰めるため「泣かないで。いいことを思い出し てみて」と声をかける。ジンミは「いいことって 何を?」と泣きながら質問する。そこで映画の幕 が降りる。

  北朝鮮国民が描くことのできないもの、それは 自分と家族の「夢」であり「将来」である。そし て「今」である。全てが政府の台本によって描か れ、台本以外のことは描いても描きたくても描く ことのできない、それが北朝鮮の実態なのだ。これは、北朝鮮で生まれ育った政府の監督も例外で はない。そのため、このような落とし穴を見つけ られず、世界に発信する破目になったのだと私は 思う。   

  ヴィタリー・マンスキー監督が一番伝えたかっ たこと、それは人間として生まれ人間として生き ることができない、マネキンやロボットとして生きるしかない北朝鮮国民の現状であると感じた。

 

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