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脱北難民女性診療報告 内科医・尹 崇高

11月28日、私たちのネットワークの中国の現地スタッフより緊急医療援助要請があった。

 当基金で検討した結果、12月末の訪中時に診察、治療の当否を決定することに合意した。その後の過程を診察結果も交えて報告する。

 

夕闇の中を診察に出かける

 

 2002年1月はじめ、現地スタッフの案内にて、夕刻暗くなって訪れた。彼女は「難民条約」で定めた「難民の地位」に相当するが、中国政府は、北朝鮮からの脱出者を

 難民と認めないために、多くの脱北者は「不法滞在者」「不法入国者」とみなされ、逮捕強制送還の恐怖のなかで隠れ住んでいる。

 そのため、人目につかないように、夕闇が完全にあたりを暗くしてから、診察に向かった。

 市内のコンクリートのアパートの一室の床上にカーペットを敷いて当該女性は横になっていた。

 私たちが入ると不安そうな表情で、上半身を起こして迎えてくれた。室内は十分にスチームヒーターで暖房されており、現地スタッフによる保護もあって、居住環境としては悪くないと思われる。

 

充分でない投薬

 

 2001年11月28日、北朝鮮咸鏡北道の清津から現地に病気治療の援助をもとめてきた。直ちに現地スタッフの協力を得て、現地の病院で診察を受け、胸部レントゲン撮影、喀痰培養による結核菌検出にて肺結核の診断をうけた。その後、現地で処方された「利福平」を内服していた。その薬の成分は不明で、効用欄に結核、ブドウ球菌に効果があるとかいていた。なんらかの抗菌薬であろうと思われる。

 

患者 金・チョミ 34歳 女性

 

 家族関係:父は患者が3歳のとき死亡。原因は不明。母は肝硬変にて死亡。一人っ子で、30歳で結婚したが、夫は2000年5月16日に結核にて死亡。子供はいない。

 

現病歴:生来、健康でバスケットの選手で身をたてていた。結婚時、体重は64kgあった。

2001年5月、最初は咳が出現し、徐々に増悪。15日後から微熱が出現し、味覚がなくなってきた。発熱はひどくなり、38c以上になるようになった。咳のときには、右胸に唐辛子をすりこまれるような痛みが出現。しかし、北朝鮮にいたときは結核の治療を受けてはいなかった。利福平を服用後も微熱は続き、咳も絶えずでる。痰が頻繁に出て、その性状は粘稠で黄色である。血液は混入せず、また、喀血もない。横になっていると息が冷え、胸が痛い。呼吸も少し苦しい感じがする。しかし、薬をのんでから少しよくなってきた。

また、鼻血が出ると、目の前が真っ暗になる。以前から夜になったり、暗くなると目の前の本の字も見えなくなる。

 

現症:身長160cm、体重40kg 全身の皮膚は乾燥し、かさついている。口唇周囲も縦に細かいしわが多くあり、一見して5~60代にみえる。

 

体温: 37.5c、血圧90/56mmhg、脈拍112/分整、経皮的血中酸素飽和度(PaO2)95%、眼瞼結膜はやや蒼白、咽頭扁頭結膜に異常なし、右上肺野、下肺野に湿性ラ音聴取、中肺野にて呼吸音は聴取できず。

右第6肋間前腋下線上にて小豆大と米粒大の周囲組織と癒着のない可動性のあるリンパ節を触知。圧痛はなし。 腹部は触知にて異常なし。

 

診断:最初に診察された現地のドクター・楊およびドクター・金の検査結果、今回の診察結果から考察して活動性肺結核と思われる。

 

治療方針1) 結核に対して

イソニアジド、リファンピシン、エサンブトールの3剤併用療法を1月1日より開始し、2ヶ月分投与

 

治療方針2) 夜盲症に対して

レバー(レチノール)、黄緑食野菜(β―カロテン)などビタミンAの摂取を説明

 

薬の服用と注意:リファンピシン服用後、赤色尿がでるが心配ないと説明。今後は継続して薬を投与するが、決して自己判断で中断してはいけないことを説明した。

(耐性菌出現を防ぐため)できることなら現地の医師に、1~2ヶ月ごとに経過をみてもらうのがベストだと説明。

 

< 考 察 >

北朝鮮では結核が蔓延 

 

 他の脱北者からの聞き取りからも結核が蔓延していることがうかがえた。しかし、北朝鮮内部では治療も受けられないという。中国に薬を求めて本人や家族が越境してくる。

 もう一度、彼らを取り巻く状況を考えなければならないだろう。彼らは脱北し、命からがら中国にきても難民として扱われないどころか、中国当局に逮捕されると直ちに、国家反逆者としての厳罰が待っている北朝鮮に強制送還される。

 

診察を受けるのも難しい

 

 こんな中でどうして、精神的、肉体的、環境的な安静が保持されえようか。それどころか、診察を受けることさえ難しい。彼らは絶えず、脱北者であることさえ隠さなければならないし、その経済的支援もほとんどない。それぞれの国が認定している難民(アフガン等)とは、おかれた環境が全然ちがうことを再度認識してほしい。

 今回の場合も現地の医師による経過観察を薦めたが、彼らにとっては非常に危険であるし、現実的でもないと考えられる。

 少し違うかもしれないが、かつてナチスドイツに占領されたフランスに隠れていたユダヤ人を想像してみるのが一番近いのではないだろうか。(もちろん中国をナチスにたとえているのではない)

 

栄養失調を伴った死か、臨機応変な対応か

 

 こういった場合、医学的常識(厳格なフォロー、喀痰培養による確定診断等)はなかなか実際的なものではないと思われる。それを厳密に適用するならば、北朝鮮内部の未治療の結核患者や脱北者の結核罹患者は、治療の恩恵にあずかれないどころか、そのまま自然治癒をまつか、結果的には栄養失調をともなった死を待つだけである。もっと臨機応変な対応が望まれる。

 

* 今回の患者に関して、すでに喀痰より結核菌が検出されており、かつ訪診時にすでに抗菌薬を服用していたので、再度の喀痰培養は行わなかった。また、レントゲンフィルムおよび現地診察医の診断書を添付した。

                          

2002年1月9日

 

皆いい知恵だしてユさんの結核の完全治癒を皆で応援しょう!! 父母も亡くなり、夫に先立たれ、子どももいない、家族に恵まれない女性です。そして、私たちの団体からの支援で生命をつないでいます。孤独と闘うのもなかなか辛いものだと思うのです。 心の支えになるような何かを届けてあげたいのですが、何かいい案はありませんか。 病気の回復を願って千羽鶴を折って彼女の手許に届けるのはどうでしょうか。 折った千羽鶴は、事務所まで小包で送ってください。必ず届けます。(会)

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