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- 書評 - 風媒社刊 キルス少年の手記「涙で描いた祖国」 松浦 清

 

 北朝鮮難民の問題に心を寄せる人々にとって、今年の6月26日北京のUNHCRに「籠城」して韓国への亡命を訴えた北朝鮮難民、チャン・キルス(張吉秀)一家の行動は未だに記憶に新しい事と思う。その一家の少年、キルス君、従兄弟の李ミング君らが、中国での難民生活のかたわら、約150枚の絵を描き、文章や日記を綴り続けた。それらをまとめたのが「涙で描いた祖国 北朝鮮難民少年チャン・キルスの手記」だ。

 

 収録された絵は、北朝鮮における公開処刑の有り様、荒廃した民心、盗掘、生き延びるために重ねられる様々な努力(山菜採りから泥棒まで)の様子、そして北朝鮮を脱出する難民の姿から、さらに北朝鮮に送還されてからの様々な拷問や処罰にまで及ぶ。一家の様々な証言がその悲劇を裏付けて行く。本書の魅力を決定づけたのは、この絵事態の魅力だ。   

 

 本書を読めば読むほど、「難民」として北朝鮮を脱出する人たちの強さが迫ってくる。少年たちは何度捕まろうと、隙を見ては脱出を繰り返す。もちろん大人に比べて多少処罰が軽いという事実はあるかもしれないが、それにしても強い意志と実行力は、ただ事ではない。(詳しくは本書をお読みいただきたいが、本当に隙あらば兵士の目をかすめてでも逃げる)

 

 そして、その姿は夜工場に忍び込んでコークスを持ち出そうとする姿にも現れている。

 

「マグネシア配合場のコンベアーに乗る

僕らはコークス偵察隊

荒々しい保衛隊が前をふさいでも

僕らはコークスとってやる」

 

 これは彼らが工場に忍びこむ時の「行進曲」だ。勿論、見つかれば厳しい処罰と暴力が待っている。しかし同時に、少年たちの描写はかすかな希望とユーモアを決して失わない。想像するのだが、この歌はきっと本歌は北朝鮮の軍歌か愛国歌で、抗日戦線での戦いの有り様を歌ったものではないかと思う。

 

 民衆を抑圧する労働党政府や軍幹部に歌われるよりも、こうして一家の生活のために処罰をも恐れず工場に忍び込む子供たちに歌われた方が、はるかに歌の精神にふさわしい。

 

 中国での難民生活も、また周知のようにつらく苦しい。しかし、その中で描き続けたこれらの絵画が語りかけて来るものは、単に絶望的な北朝鮮の現状ではない。その中でも失われない希望の灯りだ。

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